「つくし 本当にいいの?」




「うん」




「後悔・・しない?」










Act.5 現実と希望の狭間










差し出されたものは、あの日受け取った母子手帳。




もう隠せないと思った。泣きじゃくる優希に謝りながら
一緒についていてくれた西門さんに視線を向ける。




どうやらお茶会の帰りに倒れたあたしを見かけ
優希なら知っているだろうと思い
連絡してくれたようだった。






「牧野、お前・・・」




「ごめんなさい。ちゃんと話すから・・・・皆呼んでもらえるかな?」








無言で頷き部屋を後にする。
隣の部屋から連絡を取ってくれる声が
漏れ聞こえる。




今までずっと考えて 悩んで出した結論を
口にする時が来た。






連絡を取ってくれた結果
これから美作さんの家の離れに集まることになった。




誰一人欠けることなくみんなが集まってくれた。
――――――道明寺以外のみんなが。




「道明寺の子供を妊娠しているの。今2ヶ月目だって言われた。
だけど、あたしは産むことが出来ないかもしれない」




バックから取り出したのは
自分なりに調べて今ある結果を導くまでに参考にしたものが
挟んであるファイル。




簡単に出したものじゃないことだけは知って欲しかった。
渡したファイルの中身をみて唖然とする顔が見えた。




感情を殺して 出来るだけ無関心を装って話す。






そうでもしなきゃ壊れそうだった。






「知ってる?人工中絶が出来るのって21週までなんだって」




「つくし?何言ってるの?」




あたしの口にした言葉を信じられないといった表情をそこにいる皆がしていた。


声を荒げる優希を制したのは、唯一表情を変えず話を聞く姿勢を保っていた 
花沢 類だけだった。




心の中でありがとうと言いながら あたしは淡々と話を続ける。




「だけど、12週を過ぎると危険性は高くなるし、それに・・・・
死亡届も出さなくちゃいけなくなる」




「いろいろ考えたの。産むことを諦めたわけじゃない。
だけどあたしの現実は中絶を考えないわけにはいかないの」




学校を辞めても 働き出したとしても
限りはある。
家族に頼ることなんて出来ない。
時間も精神的にも・・・金銭的にも現実は追いついてくれない。








「司には・・・」
「言えるわけないじゃない・・・!いきなりあなたの子供身篭ってますって言われて
“道明寺家”がどう動くと思う?それに・・・
あいつにとってあたしは五月蝿い一般人。
記憶にないただの女、だよ?」




「・・・ごめんなさい。」




「いや・・・」




思わず声を荒げてしまった。
泣くつもりなんてなかったのに涙が溢れていた。
心配して声を掛けてくれていた美作さんにも悪いことをしてしまった。






「牧野。どうするつもり?」




ビー玉のように澄んだ目が真っ直ぐあたしを見つめる。
もう・・・何も隠すつもりはない。




「中絶を決めたわけじゃないの。あたしだって産みたい。だから・・・・
12ヶ月目。あと1ヶ月、あいつと道明寺と向き合う、思い出して貰える様に」




「それでだめだったら・・・諦めるのか?牧野・・・」




ぐるりと皆の顔を見渡す。
心配してくれる人がこんなにもいる。
それなのに何も話さなかった。
あたしのしていることはすごく自分勝手なことかも知れない。






「つくし 本当にいいの?」




「うん」




「後悔・・しない?」






曖昧に困ったように笑うことしか出来ない。




後悔しないと言えば
きっと
うそになってしまう。




だけど 現実は待ってはくれない。
毎日確実に 成長し続ける。
産んであげることが出来ないかも知れない。
あたしは 全ての可能性を考えて行動しなくてはいけない。






キミが
あたしを選んでくれたことはきっと意味があることだから。
あたしの中にいる間
精一杯愛するから
だから お願い。














あいつが キミのパパが
あたしを思い出すように祈って・・・・。














アトガキ


挑戦でもあるこの作品。
考えた結果です。最後まで暖かく見守ってください。





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