どうしよう、どうしよう・・・・。
ギシギシと軋む廊下を走り抜けて、
目的の場所へと向かう。
たどり着くと共に
バーンと大きな音をたてて扉を開いた。
「滋ちゃん、大ピーンチ!!」
おもいっきり大きな声を出して言った筈なのに
そこにいたみんなの反応はヒヤヤカ・・・。
声も出さずに、視線だけはこちらを向いていたけれど、
あたしの様子を伺うと、みんながみんな
はーっと大きなため息をついて首を降った。
あたしは心の中で
『今度こそほんとうに大ピンチだわ・・・・』
とひそかに呟いた。
「だから司を呼ぶのはまずいって言っただろ?」
頭を抱えてあっきーが言う。
「話がこじれたら滋さんのせいですよ?」
桜子が少し怒り気味にあたしを見る。
「そ、そんなこと言ったって、電話をいつまでも無視するのは不自然だったし、
それに最初の予定と変わったんだし、呼んでも大丈夫かなー?と思ったんだもん
それに!司にはつくしのこと思い出して欲しいじゃない。
みんなは違うの?
そんなに澄麗とくっつけたいの?」
勢いに任せ今までためてた言葉を吐いた。
泣きそうになった。
「あたしはつくしに会いたいよ・・・」
鼻を啜り上げる。
涙が零れないように上を見た。
「滋さん、私たちも気持ちは一緒ですよ・・・」
慰めるように近づいて来た桜子を、片手を上げて制止しながら
「ごめん」と呟いた。
「で?何したの?」
それまであたしたちのやり取りを傍観していた
ルイ君に厭きれた様に聞かれて
ここは空気を変えてやろうと思いつつ
ごくりとつばを飲み込み話を整理する。
「と、とりあえず・・・」
「とりあえず?」
再び、注目を浴び始めたことに気持ちよくなったあたしは
ふふんっと鼻を鳴らして笑いたいのを必死で抑えながら
ついさっき、司に言った言葉を
左足を近くの肘掛に、右手の親指と人差し指を真っ直ぐ立ててあごの下にもって行き、
最高にポーズを決め込んで言い放った。
再び沈黙に襲われたけれど、今度は
さっきと違ってため息が安堵に満ちたもののような気がした。
「これならまだ誤魔化せるな」
「そうですね、何とかなりそうですね・・・」
後のことを考え始めた二人にあたしは
下手に入って話をかき回さないほうがいいと思った。
だけど、大していい考えは浮かばなかったのか
あっきーは諦めたようにぐっと体を伸ばした。
「まあ、総二郎と澄麗がここにいないことが不幸中の幸い、だな」
「何だ、総二郎はいないのか?」
「つ、司!いつからそこに・・・?!」
「あ゛?」
「西門さんは、仕事でここには来てませんよ」
「アレは仕事というよりボランティアだろ?
今頃相当キテんぞ」
「何しろ宥め役に澄麗が呼び出しくらうくらいだからね」
二人の姿でも想像したのだろうか?
それまで静かだったルイ君が楽しそうに笑い出した。
「それ以上に澄麗が怒ってそうですけどね」
「オイ、話がみえねぇぞ」
自分をよそに話が進んでゆくことに不満そうな司が
ピクリと片眉を上げる。
「ほんとは今日澄麗の成人のお祝いをみんなでする予定だったんです」
「だけど、総二郎の奴が、ホラ、お前も知ってるだろ、
『芹澤 都』あの人に頼まれた事を安請け合いしたもんだから
我慢の限界に達したあいつが澄麗を呼び出したんだよ」
「そうそう。澄麗も今日を楽しみにしてたからすっごい怒ってた。
で、主役がこれなくなっちゃたから流れたってワケ」
あたしたちが交互に畳み掛けるように
話をするもんだから
圧倒されたのか、司は何も言わなかった。
「ま、いいじゃん。今日はみんなでいっぱい飲んで楽しもうよ」
あたしは両手にワインビンを持って左右に軽く振りながら
にっと笑った。