妙な感覚ばかりが残るこの屋敷は
過去に何か重要なことを決意した
そんな気がする。
繰り返し流れる機械音で目を覚ます。
呑みすぎた酒の所為か身体が重い。
仲間と騒いで楽しい酒を呑む。
時間が早く過ぎ
酔いも早く回る。
久し振りに味わった感覚だった。
無意識に確認した携帯には
秘書からのTELにメールが複数確認できた。
これだけ着信があると内容を見なくとも予想は簡単に出来てしまう。
ガシガシと頭を掻き毟ると
非難の言葉を吐き出し
まだ眠気の残る頭を回転させ、行動を始めた。
「あれ、司。早いね」
まだ寝ているのだろう。
朝早いこの屋敷はまだ静けさを保っていた。
ただ、渡り廊下を歩く俺の足音だけが響く。
そんな時だった。
いきなり掛けられた声に思わずびくつく。
声のしたほうにゆっくりと視線をずらすと
この寒い冬の朝に用意されていた
浴衣に羽織一枚という薄着で
雪の残る庭に類が一人たたずんでいた。
「類、何やってんだ」
「散歩」
この寒いのに、こんな朝早くに
何を考えているのか
しゃがみ込んで庭先の池を眺める類に
先に帰ることを告げる。
いつだかこうして
同じように 誰かと話をした 気が する。
前にここで話したのは誰だ?
ここに誰と来ていた?
何の為に?
ズキンと頭の奥が鈍く痛む。
思い出せそうで 何も見えては来ない・・・。
「司?」
怪訝そうに呼びかえる類の言葉に我に返る。
痛みも 掴み取れそうだった何かも
綺麗に消えてしまった。
「携帯鳴ってるよ?いいの?」
握り締めた携帯が小さく震えながら
まるで急げと言っているかのように
俺には思えた。