『お掛けになった電話は現在・・・』
聞き飽きたアナウンスが また 流れる。
大学の休みは無駄に長く
待ち望んでいる時は余計に時間が経つのは遅い。
こうなることが分かっていたとはいえ
死にそうなくらいの忙しさから急に
無に近いほどの暇な時間を与えられると
何をしていいのか分からなかった。
鳴らない電話と化していた
プライベート用の携帯を
久々に手に取り少ないメモリーに
片っ端から電話を掛ける。
この暇を埋めるためなら
捕まるのは誰だって良い。
そう、誰だってよかった筈なのに
誰一人つかまらねぇ。
留守電に怒りの声を残すこともいい加減飽きた頃
聞きなれない音が部屋に鳴り響く。
音の出先は数分前に投げ捨てた携帯。
ソファーのクッションに隠れ、くぐもった音が流れ続ける。
「もしもーし、司ぁ?滋ちゃんだよ〜」
「何だ、お前かよ」
ハイテンションの大声に思わず携帯を遠ざける。
「なんだはないでしょうーが!!電話してきたのはそっちなのにさっ」
ああ、確かに、したかもしれねぇ・・・・。
が、憶えてないとも言えずに用件だけを話す。
「お前、類たちしらねぇか、連絡つかねぇんだわ」
「みんな一緒にいるよ、何なら司も来る?」
みんな一緒にいる、その言葉のなかに
勝手に“あいつ”もいるものだと思い込んでいた。
逸る心をどうにか落ち着かせながら
場所を聞き出すとすぐに
投げ捨てていたキーを握りしめ、車を走らせていた。
着いた先は滋の別荘で、
古い日本家屋の落ち着いた雰囲気のある場所だった。
なのに何かがざわつく。
車の音を聞きつけたのか滋が玄関先まで迎えに出ていて
吐く息の白さがこの冬の寒さを物語っていた。
「早かったね?何かあったの?」
「いや、べつに・・・」
「どうしたの?なんだか落ち着きがないじゃん」
ぐるりと辺りを見回す。
妙な感覚がやはり残る。
初めてきたはずなのに見たことがある気がする。
なぜか苦しい感情が流れ込んでくる。
「なあ、滋」
「ん〜なに?」
酔っているのか少しふらつきながら前を歩く。
温泉があるといっていた所為か、浴衣を着ていたが、その姿すら
記憶が重なるような錯覚が残る。
「俺は ここに 来たこと あるか・・・・?」
さっきまでのふざけた表情から一変して妙に真面目な顔をする。
無音が続く。
ただ、お互いを見つめる時間が、
答えが出るまでの時間が
とてつもなく長く感じた。
「それを聞いてどうするの?」
「どうするって・・・」
「あたしがもし、来たことがあるって答えたらそれを信じるの?
来たことがないって言ったら?」
ただ、どちらかの答えが返ってくると思っていた。
思いもしなかった返答に言葉を返せなかった。
「昔の司なら人の意見なんかに左右されずに反対されようが何しようが
一番正しいことを見つけてたよ」
「本当の答えは司のここにあるでしょう?」
いつもの笑った顔に戻って俺の胸を二度叩きながら指差す。
「ま、温泉でも使ってゆっくり考えなよ。普段忙しすぎるんだから、さ」
寒いと溢しながら灯りの漏れる方へと走ってゆく。
俺はただその後姿を見続けることしか出来なかった。
あいつの言う“答え”を探しながら・・・・。
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