一人の人物に
これほどまでに
目を奪われたのは
初めてだった 気がする。






「澄麗!」






そう呼ばれて
近づいてきたのは
類にエスコートされ
会場の男共の視線を一手に集め
女共の羨望の眼差しの中
肩口が大きく開いた濃紺のドレスに
その名と同じスミレ色のラインがアクセントに使われたものを
綺麗着こなした
妙に目力を感じる女―――――




薄明かりの中で
回りの女どもに比べたら
派手に着飾っている訳でもないが
 誰より目立っていた。










「総二郎!あきら!来てくれたのね、ありがとう」






知り合いに囲まれたことにほっとしたかの様に
緊張の解けた表情を見せる。




「澄麗、お前そのカッコ・・・」
「どうせ、馬子にも衣装って言いたいんでしょう?」


「イヤ、意外と似合ってるな、と」


大きな黒目がさらに大きくなると
すっかり暗くなった窓の外を見ながら


「明日は大雪だわ・・・」


と、本当に心配そうに空を見上げる。




「いや、ホント似合ってるよ」


「ありがと、あきら」


「てめぇ・・・」


コツンと総二郎が頭をたたく。
が、それは仲のよい奴らがやるじゃれ合いのようで
そのやり取りすら楽しんでいるかのようだった。




「総二郎。おばあ様が呼んでいたわ。後で行ってくれる?」


「あきらは後で踊ってくれるでしょう?
類はダンスの相手はしてくれないから」




横目で
少し頬を膨らませ
類を見つめる。






「おい、俺にはダンスの誘い無く、ばーさんの相手かよ?」


「あら、だって総二郎は口煩いんですもの。
最初の相手は、優しいあきらがいいわ」


くすくすと笑いながら二人をからかう。


コロコロと表情が変わるそいつに
惹きつけられて
目が離せなかった。




にしても
俺はさっきからシカトか?








「おい」


俺の声に
全員が一斉に振り向く。


そして
一瞬


驚いたように瞳が揺れたように見えた。


「司、来たんだ」


「お前が呼んだんだろうが。類」


「そうだね」




俺が類に突っ掛かるとでも思ったのだろうか。
慌てたように一歩前へと静止するかのように踏み出し




「はじめまして、道明寺さん。
類や総二郎、あきら達からお話は聞いています。
芹澤 澄麗と申します。
今日は来て下さってありがとう」




ふわりと笑って
白い手が差し出される。




挨拶の為
差し出されたその手は
初めて触れる人のもののはずなのに
なんだか妙に懐かしい感じがした。






繋いだ手は
そう長くはこの手に収まらず
離れてゆく手を
このままいつまでも繋いで居たかった。


離れた俺の手には名残惜しさだけが残った。
ほんの少しの間触れていただけなのに
自分の手が変わったような不思議な感覚。
ゆっくりと手を返しながらただ見つめる。






「澄麗・・・」




ふっと、彼女を呼ぶ声にわれに返る。




「今行くわ、類。
ちょっと待ってて」




「道明寺さん、今日は来て下さって
本当にありがとう。
楽しんで行って下さいね。ごきげんよう」




類の腕を取りながら
また、柔らかな微笑みで俺を振り返る。




類を恨めしく思った。
















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