兄は 覚えているだろうか?
あの日見た花、あの日語った夢を・・・・。





砂の花びら





荒れ果てた大地に花を描く。
ひとつ、またひとつと・・・。
かつて、この地に咲いた思い出の花を。


「兄さん、見て!」

幼き頃の思い出。
朽ちた木々の裾に僅かに残った栄養と、辛うじて汚染を免れた
大地に命を灯した一輪の花。

「僕、初めて見たよ!花ってこんな風に咲くんだね!」 

僕はあまりの嬉しさに興奮を抑えることが出来なかった。

「サフィールは花が好きか?」

「うん!!」

満面の笑みで見返す。
だが、兄の表情が思いの外険しく、暗いものだったのを覚えている。
そして、まるで独り言かのように

「昔はもっと咲いていたんだ。もっと・・・」

そう、呟いた。
言いようの無い不安が過った。
兄の笑顔はいつもどこか寂しげだった。
だけど、僕は好きだったんだ。


「いつか、またこの星を花で一杯にしてみせるよ」


「本当?」

「ああ。お前が飽きるくらいに」






「そのためにも・・・」






まるで
睨み付ける様に空を見上げる。
その姿は見えずとも、あの白い光はこの地まで届く。
兄の口からあの星の対する憎しみがこぼれ始めたのはいつからだったろうか?




荒れ果てた大地に砂塵が舞う。
かつては青々とした緑に携え、この地を覆ったであろう、
木々の慣れの果てを、ひとつ、握り締める。

ひとつ、またひとつと、砂漠の大地に花を描く。





全ては変わってゆくのだろうか?
世界も、僕らも・・・・。
それでも・・・・。








「サフィール様。デマンド様がお呼びです。」






僕らは大人になった。
“ワイズマン”“邪黒水晶”という力も手に入れた。
だが、それは本当に正しかったのだろうか?



「サフィール様?」

「今行くよ、ペッツ」

反応の無い僕にいぶかしげに声をかける彼女に返事を返す。





ポケットから小さな宝石箱を取り出す。
枯れ果てた中身を取り出し、握り締め、
舞い上がる砂塵の中へと混じらせる。

薄れ行く思い出、描いた花・・・。

 形に捕らわれる必要は無い。
後ろを振り返る必要も・・・。


たとえ
手に入れた力を信じることが出来なくとも。
兄の笑みが、あの約束が
ただ、それだけがあれば、僕は進める。












アトガキ
意外と好きな、ペッツとサフィール・・・。

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