ある晴れた日に















俺と牧野の関係を尋ねられたら
親友のコイビト。その一言に尽きると思う。


いつもつるむメンバー内でも、俺らはきっと
一番近くて遠い存在だろう。
牧野はいつも何かあると類に一番に相談するし、(それだけ類が気にかけている部分もあるが)
司はあきらに電話で怒鳴る。(俺が電話に出ないようにしている部分もある)
俺はこの二人を通していつも話を聞いていた。


それがどうだ?
最近、ここ一ヶ月ほどで、やけに関係が近づいている気がする。
それも親友と彼女が、コイビトの関係から夫婦になってからだ。
茶道を習う、その名目上のこともあるが、牧野は(つくしと呼べば司が怒るし、
道明寺はお互い違和感しか残らなかった為、相変らずこう呼んでいる)中3日と空けずうちへとやってくる。
今じゃ仲間内の誰より会うことが多く、司との話も直接聞くことが多い。


相変らずケンカは多いようだがそれは二人なりのスキンシップのようで、昔のように周りを巻き込むようなことにはならない。
お互いを思いあうことで妥協線を見つけ、うまくいっているようだ。




何度か指導を繰り返すうちに、もともとの見込みの早い牧野は要領をつかんで日に日に上達してゆく。
それでも、魔女こと司の母親にまだまだだと認められないらしく、根気強く通ってくる。
俺から見れば、息抜きが大部分を占めているようにも見えるのだが・・・。




いつも指導が終わり着替えを済ますと、オイ、と声をかける間もなく、さっきまで緊張感が漂っていた茶室に大の字に寝転ぶ。
やっぱり日本人は和室だねぇ。と、気持ちよさげに声を上げる。
牧野が言うには、この小さめに作られた茶室がビンボー時代の実家を思い出し、どこか落ち着くそうだ。






「最近、司どうしてる?」


「・・・さあ?」


「さあって、お前、夫婦なんだろうが」


「んー、だってずっと会ってないんだもん」


「海外出張か何かか?」


「ううん。たぶん今頃、日本本社ビルの最上階で仕事に埋もれていると思うよ」




淋しくないのかよ?そう聞くと、
何かを思い出したようにくすくすと笑う。


「なんだよ、キミわりぃな」




それまでゴロリと寝転がっていた身体を起こすと、二人しかいない部屋で誰に聞かれる心配もないのに、耳元で小さく囁かれる。




『司ってばね、あたしを新婚旅行に連れて行こうとしてくれるみたいなの。
長期の休みを何とかもぎ取ろうとして毎日根詰めて仕事してるの。
あたしにバレてることも知らずに必死に隠そうとするもんだからおかしくって。
あ、これはあたしが知ってちゃいけない話だから、ここで言ったことは内緒ね』




うれしそうに笑う牧野は本当に綺麗になっていた。
彼女からふわりと漂う香りに思わず惑わされそうになる。


牧野、と声を掛け何かを言いかけた。
その時だった。


障子で遮られた奥から呼ばれる。


「道明寺様。ご主人様がお迎えにいらっしゃっていますが」
「司がですか?!」


何か知っているのか?という表情で牧野を見るが、頭を左右に振るだけで何も言わない。
今、忙しいと言っていた人物が、この場に来ているのだ。
驚かないほうがおかしい。


玄関に行ってみると本当に司が来ている。
どうやら予定していた仕事がキャンセルになり、久し振りに牧野と過ごす為に迎えに来たらしい。


連絡してくれればいいのに、そう言いながら牧野は司に微笑む。




「じゃあな、総二郎」
「今度は来週の月曜でよかったよね?」
「おう」


いつだったか、酒の席で珍しく酔ったあきらが昔牧野を好きになりかけていたことを溢したことがあった。
ありえねぇと笑っていた自分が今、笑える。






今まで、本音を隠すことばかりしてきたことが完全に裏目に出てしまった。
いつもこうだ。
大事な時に、伝えることが出来ない。
今も建前が邪魔をして、本音を言う機会すら無くしてしまった。
いや、自分の本当の気持ちを見失ってしまっていた。






ごく自然に腕を絡ませ、歩く二人の後姿を見送りながら遅すぎた想いに思わず笑いがこみ上げる。


それは、決して先には進めない恋に気付いてしまった ある晴れた一日。
















アトガキ

以前にお受けしたリクエスト作品です。
翔子様、その節はありがとうございました。

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