いつかは 終わる
そんな予感は あった―――――。













そんな恋の話











4年 それは長く 終わりが来ることがないような錯覚に捕らわれた。


会いたいという気持ちと これが終われば一緒にいられる
それだけが俺たちを支え
離れて過ごす時間を終わらせた。




日本に戻って まだ学生だったあいつと
1年後の卒業を待っての結婚の約束を交わした。


忙しさの中やっとの思いで作った時間の中で
会えるということにすら 
喜びを感じていた。




仕事の合間とか 食事をするだけとか
招かれたパーティーに出席するとか
何かの理由をつけて カモフラージュをして
そんなことでしか会う機会を作ることが出来なくなっていた。








「今日のマスコミも凄かったな。ったくあいつら
人追いかけて何が楽しいってんだっ!」




目も開けていられないほどのフラッシュと
壁のような人ごみを掻き分けて
久し振りに取れた時間にゆっくりと過ごそうと
メイプルの部屋に着いて
掴んでいた腕を引き寄せた時




抱きしめたかった牧野は傍に来ることなく
さっきまで在ったはずの腕のぬくもりが
するりと落ちた。








「終わりにしよう 道明寺・・・・」




余りにも突然すぎて
嘘だと思った。 思いたかった。
だが、真っ直ぐに俺を見る牧野の目に迷いはなかった。
涙もなかった。




ただ 昔のように ほんの数ヶ月前までのように


当たり前のようにあった瞳の輝きがなかった。








「――――もう・・・・いい」








疲れちゃった――――。






それが 全てだった。








帰国が近づいた頃から
牧野がマスコミに追われている話はあいつらから聞いていた。
メディアに載った牧野の姿に
一般人に対する思いやりなど感じられなかった。


それが全て
4年前のメディアを使ったプロポーズが元だとも分かっていた。


俺が蒔いた種だった。




お互いを思う気持ちは変わってない
むしろ強くなっているという自信があったから
臆することなく二人で堂々と立ち向かった。




追いかけまわされる日々の中で


下手に隠し立てたりしないで 周りに掛かる迷惑を少なくしたい
そういう牧野の希望を聞いて オープンに出来る部分はそうした。
その方が追いかけられなくて済むと思っていた。
牧野を守りきる絶対的な自信がその時はあった。


それより 今思えば
俺の惚れた女を世界中に自慢したい気持ちが強かったのかもしれない。






万全を期したつもりでも
僅かな穴から零れてしまう小さな情報を誇大して伝える。
守りに回る分、どうしても後手にならざる終えない部分が大きくなった。
守ることに躍起になって
何度も引越しを繰り返して
隠れるように過ごして


対応しても対応しても
こちらが必死になるほどに
卑劣さを極めてくる。
プライバシーを覗いて暴いて・・・書き立てて
都合よくルールを、常識を、曲げて・・・・。






完全に守るには
つないで かごの中で 自由を奪って 閉じ込めて
そんな生活になってしまう。 




それじゃ 牧野じゃなくなってしまう。
守ったことにはならない。




自由を奪われた生活の中で
何度も喧嘩をして 危機を迎えたのは1度や2度じゃなかった。
喧嘩するたびに
お互い身体を丸めて小さくなって
抱きしめあって眠った。


ぬくもりを感じていないと不安だった。
不安定な日常に恐怖しか感じていなかった。








「最近、 司の笑った顔 見てないのよ」






ホラ、眉間にシワ。






白く小さな手が 震えながらゆっくりと 額に触れる。




泣きそうだった。
最後まで笑顔でいようとする牧野の姿に。
俺に気を使い続けるその優しさに。 






嫌いになったわけじゃないよ、気持ちは変わんない。
だけどね、
悪いことしてるわけじゃないのに追い掛け回されるのは
もうたくさん。
だけど、それ以上に
司が辛そうなのを見るの 嫌なんだよ。




これじゃあ、あたしたちらしくは 無いでしょう?




悲しげに笑う。
そんな表情をして欲しいわけじゃない。
それに
“司”
 牧野にそう呼ばれたのは初めてだった。
気持ちの強さが 示されているのが 辛かった。




離れることが俺らにとって致命的なことは十分に分かっていた。
もう一度は きっとない。






「別れよう」






答えは、出ていた。
最後の言葉を彼女に言わせてしまった。






俺らの歩く道が離れていっているのを感じてはいた。
自分たちの気持ちとか 努力とかではどうしようもない問題だった。










限界だった。
別れることで 離れることで
解決になるわけじゃないことも分かっていた。




いつかは厭きてくれるかもしれないが
一緒に居続ける限り 追いかけられる。
結婚すれば?子供が出来れば?
俺が会社を継げば?
そんな先のことを考えても答えを出すことができない。








「牧野、・・・・今まで ありがとう」
















最後にかけた言葉が 正しかったかなんて
今でも分からない。
それでも言わずにはいられなかった。






あの日 牧野と別れて 数年がたつ。


俺らの歩く道が交わることは無かった。




今何処にいるかも 分からないけれど
牧野が幸せなら それでいい。








別れを告げたあの部屋で 変わりゆく東京の街を見下ろす。
目まぐるしく変わり進む世界と今日もまた戦う。










あの日の別れを 牧野の気持ちを無駄にしない為に










アトガキ




この話は最近サイトを続けることで感じているものを
別れに置き換えて書いてます。
だからちょっと無理な部分があるかもです。
ごく一部の方には 
そのことに対して別途私なりのメッセージを送ったつもりです。




これで行動を起こしてくださるとありがたいです。





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