月光
晩餐の後
彼女の姿が見えない。
護衛のものが慌しく探す中
もしやと
心当たりのある場所へと
足を運んだ。
夜も深まり
闇が世界を包む
パレスを離れ
彼女がいるであろう場所へ向かう。
そこは
最近見つけた
思い出の場所に似た
森の奥の湖。
ふわりと白いドレスを広げ
座る姿は
あまりに神秘的で
一瞬声を掛ける事を躊躇させる。
「ここにいたのかい?」
「エンディミオン・・・・」
「皆が探していたよ・・戻ろう」
「月を見ていたのよ、ほら満月」
無邪気に笑い
彼女が指差す先には
遮るものの無い漆黒の空に浮かぶ銀色の光を放つ大きな月。
「今日はとっても月がきれいでしょう?
湖の近くで見たくなったのよ」
そういうと また
視線を元に戻す。
だが
見るのは空ではない。
視線は真っ直ぐに前を
いや、僅かに下を向いていた。
「湖畔に座っている君を見ると昔を思い出すな・・・」
「え?」
「前世。君はよくこうして僕が来るのを待っていてくれたね」
それは、悲しい思い出の中での楽しかったひと時。
「あの頃はまだ、私の方が待つ時間が長かったわね」
「そうだな、でも」
「?」
「その分、だいぶ待たされるようにはなったかも、な・・・」
「もう・・・」
昔は、約束することすら出来なくて
お互い何かを犠牲にしなくては、会うことすら間々ならなかった。
それも逢える時間はほんの僅か・・・・。
逢いたい
その気持ちを重視して
犠牲にしたもの、失ってしまったものは
多すぎた。
その気持ちに従ったことに
後悔はないが
決して忘れてはいけない過去。
「水面に映る月があるでしょう?
私、あれを見るのが好きだったのよ・・・。
まるで、月と地球がひとつになろうとしているみたいで・・・」
水面に映る月は、風に吹かれてはユラユラとゆれて
揺れるたびに光が増して
空で輝く月よりも身近に感じた。
まるで、この星と一体になるべく溶け込もうとしているように見えた。
同じ星なら・・・同じ星に・・・・
そう願い続けた過去。
今はこうして 一緒に過ごすことが出来る。
共に生きる喜びを感じることが出来る。
「さあ、我が姫君」
戻ろう、と、差し出すその手に白い小さな手が預けられる。
柔らかな笑みが心を包む。
空高く輝く月は
今日も優しく
地球を見守っている。
アトガキ
約束の下りが意外とお気に入り