破れぬ夢をひきずって
あの楽しかった日々は、生まれ変わった今も昨日のことのように思い出せる。
だけど、思い出はどうしても、辛く悲しいものへと変わってゆく。
それを望んでいなくても。
あの頃、私達のプリンセスは護衛の目を盗んでは、地球に降り立ち
初めての恋を楽しんでいた。
それは、
禁じられた恋。
“地球と月の住人は通じてはならない”
それは、神の掟。
「月の女王も残酷だな」
ざわめくフロアの中、その一言はやけに冷たく重く、静かに響いた。
思わず、言葉の主を仰ぎ見る。
「どうしてそう思うのよ!クンツァイト・・・あんなに幸せそうなお二人を見て」
「前を見ていろ。お互い話しているのが分かるのはまずかろう?」
彼は、決して振り返りなどしない。
視線はいつもただ一人の人物へと向けられている。
フロアの中心で、私の大切な護るべきプリンセスとダンスをしている相手へと。
柱に身体を預け、腕を組んでいても。
その姿が、決して四天王と称されるほどの凄腕の剣豪に見えなくとも。
私と会話をしていても・・・・。
いつも、目線は彼、プリンス・エンディミオン。
悔しさに似た感情が、心の奥底で渦巻く。
「離れることが決められている二人に
後々残る思い出をわざわざ与えるなんて残酷だろう?」
彼の言うことは正論だった。
その意見に、相違はない。が、
「離れることが決められたってどうして言えるの?
掟なんて破ってしまえばいいのよ!」
口から出たのは、反抗心。
どうしてだろう?
いつも けんか腰にしか、話すことが出来ない。
こんなことは望んでいないのに・・・。
「ふっ、月の四守護神のリーダー・ヴィーナス殿の言葉とは思えんな・・・」
含んだような笑いが、口元にこぼれた。
「WWWWWWお二人を見てるとそう思っちゃうのよ!!」
うれしいのに悔しいから そっぽを向いてしまう。
どうして素直になれないのだろう?
立場とか国の違いを考えてしまうから?
こんなにも近くにいるのに一番遠く感じる距離。
・・・・・・ねえ、クンツァイト。
あなたの心に私の居場所って ある?
「だが、そんなことを思えるのも、あと僅かだな」
耳を疑った。
身体の内側が震える。
どくん、ドクンと波打つ。
震える声をやっとの思いで、絞り出す。
「どういうこと?何か知っているのね?」
「地球で反乱が起こっているのは知っているだろう?」
「ええ」
「その中で先陣を切って不穏な動きをしている輩どもが
月へ攻め入る計画があるという情報を手にした」
「月へ?そんなの出来るわけないでしょ?
誰がここを守っているとお思いなのかしら?」
動揺を強がりに代えて吐き出す。
たとえ、僅かな間とはいえ、恋に浮かれていたあたしを罰するには重過ぎる内容
切り替えなきゃ。
四守護神と四天王のリーダーの会話。
大切な主とこの世界を守るために。
「普通に考えると“ありえない”ことだろうがな。だが、後ろに憑いている力は
強大な上に得体が知れない。何が起こるやも知れん。そっちも気をつけておけ」
「わざわざご忠告ありがと。ま、必要は無いでしょうケド」
「・・・・・相変わらず、だな」
「でも、それとお二人とどういう関係が?」
「いずれ耳に入るだろうが、マスターが地球と月の王国間のゲートを閉じることを国王に打診された。
国王も・・・・月の女王もすでに承知され、後は行動に移すのを待つのみだ」
いろんなことがアタマを過ぎって、考えが纏まらない。
そんな、話聞かされてないわよ。
ゲートを閉じるってことが、何を意味するか、知っているでしょう?
もう、会うことは出来なくなるのよ?
二人ともどれだけ注意したって聞かなかったくせに。
一度閉じたゲートを再び開ける事が、どれだけ大変なことか知らないはず無いでしょう?
それより・・・・・・・。
「どうしてエンディミオン様が!!」
「姫君を守るためだろう?地球から奴等を出さずに処理する。
守りに徹する為、ゲートを閉じる。
今、マスターにとって月の姫君が全てだからな。考えた末の結論。
最良の選択だろう?」
「最良じゃなくて・・・・最悪よ」
「・・・・・そうかもな」
言いたいことは沢山あった。
だけど、タイミングを計ったように曲が終わる。
私たちの大切な人たちが、にこやかに近づいてくる。
それは、私たちの会話の終わりを意味する。
「・・・・ゲートが閉じると君とも会えなくなるな」
!!
どうして、そんなコト言うのよ、バカ・・・・・・。
目頭が熱くなる。
想いがこみ上げて 詰まる。
「ヴィーナス 聞いてよ。エンディミオンったらね・・・」
頬を赤らめプリンセスが近寄ってくる。
表情を整え、いつもの私に戻る。
伝えない。
それも大切なことなのかも知れない。
出迎えのため、踏み出した一歩は私たちの別れになった。
クンツァイト
彼ら四天王は地球での戦いの最中、奴等に洗脳され敵となった。
ゲートは閉じられることなく
滅びの道へと歩みを進めた。
まるで灯火が消えるかのように・・・。
アトガキ
現世の回顧話だけど、過去につながりを持たしたいので、
無理やりこっちに・・・・。
初書き・護衛カップル。残り3組・・・。