カミナリ








主君に忠誠なる家臣としてある一点を除けば、彼は素晴しかっただろう。
何度も注意を受け続けていた。
それさえなければ・・・。






ココン。




「マスター、入りますよ」




ノックをする。声を掛ける。ここまでは良い。
が、彼はせっかちである。そして短気でもある。
声を掛けたとほぼ同時に、すでに手はノブへと掛かりまわし始めていた。


いつものようにその日も行動を起こす。
普段ならその部屋に入る際、その行動は大して問題は無かったであろう。
開いたドアの先、ある人物と目が合った。


・・・・・・・・・・。
二瞬の沈黙。
彼は、自分の見たものは間違いだと思った。いや、間違いだと信じたかった。
扉の向こうにはいるはずの無い人物がいた。
自分に向かってニコリと笑いかけていた。
ネフライトの脳は現実を受け入れられないまま、扉をゆっくりと閉めた。










「・・・・5分だな」

「え?」

「いや、あいつが、ネフライトが状況を飲み込んで次にここに来るまでに5分はかかるなと思ってね」




苦笑混じりに、エンディミオンは言う。




「クンツァイトならその場で雷落とすだろうし、ゾイサイトはきっと状況を把握しながらも見逃してくれる。
ジェダイトは・・・・口止めして部屋から出さなきゃしばらくは持つだろう」


「私、まだジェダイト様にはお会いしたことはないわ」




ネフライトと目を合わせた人物は、楽しむように笑いながら部屋の主と言葉を交わす。




「ジェダイトはかわいい奴だよ。歳も僕より下だし・・・弟のような存在かな?」


「まあ、それはぜひお会いしたいわ・・・でも、本当に私ここにお邪魔しても大丈夫だったの?」



不安げな青い瞳が揺らぎつつ、柔らかな声が問う。




「平気。今日は口煩いクンツァイトも留守だし、ここには僕と彼らしか入れないから・・・・」

「それより、紅茶で良かったかい?セレニティ」


「ありがとう。エンディミオン」






ふんわりとした優しい時間が二人を包む。




その時だった。
大きな音が辺りに響き、重い扉が開け放たれる。
再び、ネフライトが戻ってきたのだ。




「ど、どうしてあなたがここにいる!・・・のですか!?」




まだ動揺は抜けきらないのだろう。
妙な感嘆句と言葉遣いが如実にそれを表していた。




「どうしてって、俺が招いたからだろ」


「そうか!!・・・・ってそうじゃなくって!!」




まるで舞台で演劇を行っているかのように大げさすぎる身振りで驚きを表現する。




「この雨の中でセレニティが、風邪を召されたらどうするつもりだ」


「それは困りますね・・・」




ごく自然に会話に入ってきた声の主に一斉に一同が振り返る。


「マスター。隠し事あるなら次からネフライトはすぐ捕まえることですね。彼の混乱した独り言は大きいですから・・・」


「ゾイサイト! おまっ、なんでここに!!」




厭きれた様な表情をしたゾイサイトの後ろには、辺りの様子を伺うように金色の髪をした少年のような人が隠れて付いてきていた。




「ジェダイトまで・・・・」


「知って仕舞ったのなら放置するより監視下に置いたほうがいいでしょう?」




落胆するエンディミオンにゾイサイトはさらりと言葉を掛ける。
その時だった。じっと様子を伺っていたセレニティが声を上げた。




「きゃー!!」




部屋に突然響いた声に、そこにいる人物全員が驚き一斉に声の主を振り返った。




「すごいわ、エンディミオン。さっきおっしゃっていた事、全て合っているわ!」




興奮気味に話すセレニティの言葉の意味を正しく理解できたのはただ一人。
それ以外の3人はお互い顔を見合わせ怪訝そうな表情をする。
エンディミオンはセレニティにしか見えないように口元に指を立て、サインを送る。




「まあ、せっかくこうして集まったんだ。ゆっくりお茶でも飲んで話そう」




話を逸らそうと先ほど用意していたティーセットの方へと皆を促す。




「でも、ゆっくりは出来そうに無いですよ。クンツァイトが、女性を引き連れて帰ってきましたから・・・・」




いつの間にか窓に張り付いていたジェダイトが冷静に人物観測を始める。




「なんだか、変わった格好だな? 金色の長い髪に赤いリボンがついているし・・・・歩き方がなんだか怒っているようですよ」




それって・・・。




「「ヴィーナス??」」




エンディミオンとセレニティの言葉は見事な調和を見せる。


カーテンに身を隠すようにこっそりと覗いた先には確かに見覚えのある人物がいる。




「どうしましょう・・・」


「見つかると大変なことになりそうですね。あの様子だとクンツァイトもかなり気が立っていそうだ」


「セレニティはもう戻ったほうがいいな。ここでヴィーナス殿に逢いたくは無いだろう」




落ち着いて感想を述べるゾイサイトを余所目にエンディミオンはテキパキと指示を与え始める。


「ジェダイトと・・・ネフライト。セレニティをゲートまで送ってくれ。お前らもここにいないほうがいいだろう?」


彼らもクンツァイトの怒りが怖いのだろう。
反感の意を唱えることもなく二人は指示に従い、誘導を始める。
ドレスを翻し、名残惜しげに去ってゆくセレニティを見送るとエンディミオンからは大きなため息がもれた。








「さて、どうするかな・・・・」


「さあ・・・」




二人きりになった部屋には嵐の前の静けさのように静寂が支配する。
本物の嵐は過ぎ去ったというのに。
空を覆っていた雨雲全てがこの部屋に集まったかのようなどんよりとした空気が漂う。
これから落ちるであろう雷に二人は頭を抱えため息を零す事しか出来なかった。








アトガキ


これを書いてしまわないと先に進めないので
頑張ってup。題名いまいちデス・・・・。


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