心地よい揺らぎと襲ってくる眠気に
相変わらず弱いあたしは
半ば強制的に放り込まれた車の中で
睡魔に秒殺された・・・・。








すべての幸せをオアズケに







「・・・い。・・・おい・・・牧野!」




星が 飛んだ。


現実に あたしを引き戻したのは
懐かしいあいつの声ではなく
額に響いた 鋭い痛み。




両手で押さえながらも
文句のひとつでも言ってやろうと
口を開くよりも
あいつが あたしの腕を取る方が
数段早くて
今度は引きずるように
車から出される。




目の前に広がる光景に
ただ口を開けることしかできなくて


「ここどこよ」


ため息と共にやっとそれだけがこぼれた。




「今日からここに暮らすから」
そう言って
指差した先は
目の前のマンションのはるか上で
首はこれ以上、上を向くことなんで出来ない。
それぐらいがっちり見上げたのに
あいつの指差す先なんて見えやしない。


何十にも掛けられた厳重なセキュリティを抜けて
滑るように音もなく
昇る専用エレベーターであっという間に着いた
そこは
最上階 ワンフロアの
贅沢な部屋。


目の前に広がる
世界はなかなか受け入れられなくて
これも夢の続きだと思いたくなる。
それを現実だと認めざるおえないのは
一時間ほど前に無理やり付けられた
薬指の重み。


そして


だっだ広いリビングの中心に
ポツリと置かれた見覚えにある
ここには不釣合いな小さな山。


あれって・・・


「ど、道明寺」
「なんだ?気に入ったか?」


何がそんなにうれしいのか
あいつの顔は
気味が悪くなるほどに緩みっぱなし。


「つかぬ事を伺いますが、あの荷物って、まさか・・・」


「何だ?お前。自分の荷物もわかんねぇのか?」


・・・やっぱり。


「お前の両親は こんなのいらねぇと言わんばかりに
さっさと荷物まとめたぞ」


忘れていた頭の痛みが戻ってきて
パパとママが
今頃 歓喜の舞を踊っているのが
やけにリアルに浮かんでくる。


・・・にしても
さっきから
その締まりの無い顔
やめなさいよ!!




「牧野」
「なによ!」
「お前、俺と会えて嬉しくないのか?」




なによ 今度は
そんなまじめな顔して・・・。




・・・嬉しいわよ。
だけど
あんたのやる事がひとつひとつ
突拍子もなくて。


素直になる暇も
タイミングさえも 見つからなかっただけ。


「道明寺」
「おう」
「おかえりなさい」


久し振りに触れたぬくもりも
ふわりと漂うコロンも
全てが懐かしくて
うれしくて


ゆっくり しっかり
道明寺の背中に手を廻して
ギュッと抱きしめる。


やっと じっくり
現実なんだと 実感できる。


「牧野・・・」


ゆっくり近づいてきた
あいつの顔は
記憶にあるよりも もっと
大人びていて

久し振りに
クチビルがふれ――――――






ピンポーンピポピポピポピンポーン・・・・・。




けたたましく鳴り響く音に
甘い雰囲気は
あっという間に消え去って


それまで漂っていた空気に
耐え切れなくなって
思いっきりあいつを突き飛ばして


誤魔化すように
インターホンに手を伸ばす。




小さなモニターに映るのは
画面一杯に人間の
かお・カオ・顔・・・


どうやってここが分かったのか
大学で別れたはずのF3と
さらにT3が勢ぞろいしていて




別に見られていたワケじゃないけど
あまりのタイミングのよさに


あいつは青筋
あたしは赤面。






あたしたちには
まだ
普通の恋人のような関係は
まだまだ 遠い・・・?
















アトガキ

やっと出来たのがこれ。
SAVE ME?の続きです・・・。

Back