缶コーヒー







「くっそー!さみーっ」
「いったいこの俺様をいつまで待たせる気だ!!ぶっ殺す!!!!」






さっきから彼は、この言葉しか言っていません。
かなり不機嫌です。


そして、あたしは
こんな彼をドライブに誘ったことを物凄く後悔しています・・・・。








そう
すべての始まりは数時間前。
あたしが海に行きたいって言ったことが原因です。

久し振りに休日が重なって一緒にいられる時間が出来たら
やっぱり普段出来ないデートとかしたいじゃない?
で、最近ちょっと嫌なこととかもあって
すっきりしたい気分だったから
海までのドライブに誘ったの。




あたしは海さえ見れれば
近くでも全然良かったのに
なぜか、何を考えているのか
片道数時間の高速ドライブが決行され
やっとのことで海に着いたのは
日も傾き始めた夕方のこと。
海は暗くて殆ど見えない。








すっきりしたいから海が見たかったのに
苛立つ彼と小さな空間に二人っきり。
誘ったのは確かに私のほうだけど
ストレスは余計にたまる。




しかも
車はエンスト。
周りには何も無い・・・・。






こういう時、不幸は重なるもので。
携帯は充電切れ&圏外。




海辺から離れ、何キロか歩いて
やっと見つけたガソリンスタンドは
カードリーダーが壊れてカードは使えない。
彼は現金を持たない人だし、あたしといえば
大学に入って多少の余裕があるものの
今日に限って あるのはほんのわずかな小銭だけ・・・。
当然、ガソリンなんて買えるはずもなく。
久しぶりに使った公衆電話で迎えを頼んだものの、
なかなか来ません。



・・・場所を考えれば当たり前です。






車内で迎えを待っているとはいえ
真冬に暖房も無い場所は寒くて・・・。
しかも
あいつってばじっとはしてられないらしくって
何度も車を出たり入ったり・・・。

まったく
ちょっとは落ち着いてくれればいいものを。




ポケットには
あと残り120円。
周りに店は無く、あるのは
一台の自動販売機。
買えるのは あいつの嫌いな庶民の飲み物。
でも。



ちょっと離れた自動販売機まで小走りで向かう。
あいつが何か喚いているのが、聞こえたけど
かまってなんていられない。


だって。
寒風拭き荒む中
あたしは彼とは違うから
長くは外に居られない。







「はい」
「いらねぇ!」





「もう、誰も飲めって言ってないでしょう!ほらっ」

小さな缶を握り締めたあいつの手を
ぐいっと引き寄せて
ジャケットのポケットに一緒に突っ込む。






「・・・・あったけぇな・・・」




認めたくないのは 分かるけど




そっぽを向いていたって
周りが暗かろうと

真っ赤なの、ばれてますよ、司君。




でもきっと
あたしも同じように

赤いんだろうな・・・。


それにしても


入れた手を出そうとしないって事は


・・・・どうやら。


気に入ったようです。




アトガキ

犬の散歩のときにたまにやります
意外とホントにあったかいのですよ、コレ。

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