ある密かな恋
「大好き、よ。・・・か」
見上げる空は何処までも青く澄んでいるのに
あたしの心の中は どんより曇ったままだ。
大きく吐き出す息と共に
悩ます問題もなくなってしまえばいいと
また繰り返し 息を吐き出す。
かくん、と落とした頭と共に流れ落ちる髪すら今は煩わしい。
「どうした、ヴィーナス殿?」
「・・・ああ、クンツァイト」
僅かに仰ぎ見ると、深いため息をついて憂鬱な顔に戻る。
「覇気のない君なんてらしくないな」
何度目かのため息だろうか。
まるで独り言のように言葉が漏れた。
「・・・あのふたりってさー」
「ああ?なんだ?」
傍に人がいることを今、思い出したかのように話しだす。
「ねぇ。あの二人どう思う?」
「どう?って。・・・少なくてもこの現状はまずかろう」
「そうなんだけどさー。
ねぇ、あの二人の国の違いとか身分とか、掟だとか・・・・兎に角
ぜーんぶ無いことにして二人を見たらどう感じる?」
「何が言いたい・・・」
「べっつにぃー」
「そんな感じではないだろう?」
はぁーっ
「たださ。結構お似合いなんじゃないかって思っちゃって・・・」
「君という程の者がどうした?感化されてしまったか?」
「そうよね、おかしいわよね・・・・」
確かに いつものあたしらしさは ない。
「まあ、確かに。あの二人が出会ったことは、
マイナスばかりではないということは確かだな」
意外な人物からの意外な言葉に
あたしは ただ 目を丸くした。
“われらの剣は主の為に死する剣です。
あなたはまず御身を守っていただかないと。生き延びる剣でないと”
いつだったかマスターに言い聞かせた時は
納得いかないといった表情をされた。
彼の振るう剣筋のみで判断したとしても
自分が望んでいたものが現れ始めている。
それは明らかに あの姫への感情が作用している。
「何よ、黙り込んじゃって」
「護衛である立場を誇りと感じる俺らには
決して与えることの出来ない感情をあの二人は共有しているということだ」
「それは・・・・あるかもしれないわ」
“結局、あなたは あの方の一番でありたかったのよ”
確かにそうだ。
同じように 同じ感情を共有して・・・・
一番に想われる 一番近い存在で居たかった。
それに
“ヴィーナスなんて
本気で人を好きになったことがないから分からないのよ!!”
前にプリンセスに言われた事が
想っている以上にあたしにしこりを残していた。
「参ったなー。見透かされているじゃん」
愛の女神の化身であるはずの このあたしが
自分の内にある愛の形の変化に気付くことが出来ないでいた。
「何だ、自己解決か?」
「ま、ね。でも・・・きっかけをくれたのはあなたよ、クンツァイト」
今この横にいる人を 気になっていた。
それは 恋愛感情にあまりに似ていて
恋は盲目。
その言葉通りに惑わされていた。
彼を好きか嫌いかで表すなら好きの部類に入るけれど
だけどそれは 恋愛ではない。
友愛?同志愛?どちらかはよくわからないけれど
たぶん、そんなものだ。
「ま、成長出来た、というよい面だけを評価して
二人にはちゃっちゃと離れてもらいましょうか!!」
「・・・そうだな」
「同志ね、あたしたち」
「何なら同盟でも結んじゃう?」
「ふっ、断る」
「言うと思った」
“らしさ”の残る言葉で十分満足だった。
思いっきり背伸びをして
くよくよしていた自分を吹っ切る。
「プリンセス!!もう帰りますよ!!」
大声で叫び、後を追うその後姿に
もう迷いはなかった。
アトガキ
Love〜の続きです。
これを書くのに実写を見直してました。
原作と実写の台詞が入ってます。
でもなぜかここのクン様のイメージする姿は原作なんですよね・・・。